2023年3月14日 正午12:00、プリキュア20周年の大人向け映像施策として、『Yes! プリキュア5』(2007)/『Yes! プリキュア5GoGo!』(2008)関連作品の『キボウノチカラ オトナプリキュア’23』、ならびに『魔法つかいプリキュア!』(2016)の続編『魔法つかいプリキュア!2(仮)』が発表されました。
前者はプリキュア史上初となるNHK Eテレでの放送、後者は同じくプリキュア史上初となる日曜深夜2:00枠での放送で、発表の状況からいずれもTVアニメーションシリーズとみられます。
プリキュアの定位置「ABC日曜朝8:30」枠以外でTVシリーズが放送されるのは、プリキュア20年の歴史で初めてのこととなります。
大人へ向けた「プリキュア」シリーズの制作決定!|プリキュアシリーズ公式ポータル | 東映アニメーション
まだ詳細は不明ですが、先日1月31日に挙行された全プリキュア展のオープニングセレモニーでプリキュアの父・鷲尾天プロデューサーが発言した「大人になられた当時のファンの方々が、より楽しんでもらえるような映像施策」が具体的に見えてきました。
『キボウノチカラ~オトナプリキュア‘23~』
『Yes! プリキュア5』(2007)/『Yes! プリキュア5GoGo!』(2008)のスピンオフあるいは続編とみられる『キボウノチカラ~オトナプリキュア‘23~』は、2023年10月からNHK Eテレで放送されます。
どの枠で放送されるかは、まだ発表されていません。参考までに、現在NHKで放送されているアニメ枠の表を挙げておきます。
ストーリーとしては、「夢原のぞみを中心に、彼女たちが成長した姿を描く」とのことです。この設定自体は、『映画プリキュアオールスターズNewStage3 永遠のともだち』(2018)で描かれた「夢」の姿(ただし同作では姿は中学生のままでした)、そして『小説 スマイルプリキュア!』(2016)を彷彿とさせます。
特筆すべきは、東映アニメーションが明確に「大人へ向けた『プリキュア』シリーズ」と謳っていることです。これまでプリキュアは一貫して3~9歳女児をターゲットとしたアニメーションでした。
プリキュア15周年施策の一環として初代『ふたりはプリキュア』をはじめ歴代プリキュアのファンを意識した『映画HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』(2018)が製作されたことはありましたが、あくまで現役世代へ向けた『HUGっと!プリキュア』(2018)の枠組みの中での試みでした。
以降、『映画ヒーリングっど♥プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』(2021)でのプリキュア5客演、『映画トロピカル〜ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』(2021)での『ハートキャッチプリキュア!』(2010)客演と、新旧ファンを繋ぐ同様の試みが何度かありました。
それを布石として、今回は最初から「大人」がターゲットです。『Yes! プリキュア5』(2007)/『Yes! プリキュア5GoGo!』(2008)のメインターゲットは、現在は18~25歳あたり。個人視聴率の集計区分では「F1層」に該当するゾーンに差し掛かろうとしています。
思えば「プリキュア5」自体がココとのぞみの恋愛関係、そして『映画Yes!プリキュア5GoGo! お菓子の国のハッピーバースディ♪』(2008)ではキスを描くなど、近年のシリーズと比較するとかなり大人びたシリーズでした。
「大人向け」、されど「プリキュア」。映像表現や演出がどのように変化するのか。これまで積み重ねてきたプリキュアの歴史に対する位置づけがどのようなものになるのか。期待と不安が入り交じります。
また東映アニメーション側から発表されていない要素として、NHKのイベント「超体験NHKフェス」で3月21日(火祝)に「キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~トークステージ」が開催されることが挙げられます。そこで新たな情報解禁もあるとのことです。
新作シリーズアニメ「キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~」 Eテレで今年10月放送開始! – NHK
イベント詳細・申込(超体験NHKフェス アニメ「キボウノチカラ ~オトナプリキュア’23~」トークステージ) | イベント・インフォメーション | NHK(日本放送協会)
『魔法つかいプリキュア!2(仮)』
『魔法つかいプリキュア!』(2016)の続編、『魔法つかいプリキュア!2(仮)』は、ABC日曜深夜2:00枠「ANiMAZiNG!!!」にて2024年度放送予定とのことです。
興味深いことに、『魔法つかいプリキュア!』(2016)は、放送終了からまだ6年しか経過していません。当時のコアターゲットはまだ中学生あるいは小学校高学年といったところです。「大人向け」と言うには、些か早すぎる感も否めません。
しかし日々成長する10代にとって、「今日の自分」は1年前の自分よりもずっと「オトナ」なのです。30代40代になって振り返ってみると全然子供だったなぁと思うこともありますが、少なくとも当時の意識としてはみんなそんなものだと思います。
こちらは『キボウノチカラ』と異なり、明確に「続編」を謳っています。しかも『魔法つかいプリキュア!』は、プリキュア史上初めて、成長して大人になった姿を本編中で明確に描いた作品です。もし最終回・第50話の直後から物語が始まるとすれば、みらいとリコは19歳。はーちゃんは19歳の姿。中学生の視聴者にとっては、昔憧れたプリキュアのお姉さんが依然として自分達より年上のお姉さんとして憧れの対象でいてくれるということになります。
プリキュアで育った視聴者がプリキュアが描き続けてきた年代に成長したとき、改めてプリキュアに向き合って何を思うのか。プリキュアが描いてきたこと、あのときプリキュアにもらった勇気と希望が自分の人生をこれから切り拓いていく上でどんな力になるのか。リアルタイム世代からの反響が、今からとても楽しみです。
今回の施策が持つ意味
東映アニメーションは新作を発表し続ける一方で、かつて人気を誇った既存IPのリブートを得意とする会社です。『ドラゴンボール』シリーズに代表されるように、同社の看板作品は幾度となくリメイクやスピンオフが製作され、幅広い世代をアニメに呼び戻し、また新たな世代に古典的名作の魅力を伝える役割を果たしています。
今回その流れに過去のプリキュアシリーズが乗ったことは、これまで原則として新作を作り続けたプリキュア史の上では、非常に大きな転換点といえるでしょう。
かつて夢物語だった「大人になったみんなに会いたい」「最終回の続きが見たい」というファンの想い、願い。みんな必ずしも実現するとは信じ切れていなかった「夢」が今、「魔法」みたいな「奇跡」によって具現化しつつあります。
20年プリキュアを追いかけてきた筆者でも、全くの寝耳に水だった今回の発表。ここから先は本当に、何が起こるかわかりません。今はただ20周年マジックが呼び込んだこの状況を楽しみながら、放送を楽しみに待ちたいと思います。