定期的に語り草になる、「サンシャイン5000枚伝説」。
「キュアサンシャインの変身BANKは、通常1話あたり動画枚数3000枚のところ、実に5000枚も使っている」というものです。
今回は、この伝説を検証します。
キュアサンシャインの変身BANKといえば、並び立つかわいさと力強さ、そしてダイナミックなカメラや回るシャイニーパフュームなど溢れる躍動感が魅力です。原画を担当したのは志田直俊さん。他にレモネード(1年目)、パッション、ビート、エース、フローラの変身BANKも担当されています。
「伝説」のそもそもの発端は、『ハートキャッチプリキュア!』第22話、予告でキュアサンシャイン変身BANKが初披露された直後の、長峯達也監督によるこちらのツイートでした。
https://twitter.com/atagawaatami/status/18272306190
また翌年も、次のようなツイートをされています。
https://twitter.com/atagawaatami/status/99109107423916032
ここから読み取れる情報は…
- 動画枚数=1000枚
- 仕上枚数=5000枚
「5000枚」という見慣れた数字とは別に、「1000枚」という数字が登場しました。
そもそも「何の」枚数なのか
まず前提として、アニメーション作画の各工程における「枚数」を簡単に説明しておきます。
- 原画枚数
- 原画さんが描いた、カット中の芝居の要点となる「原画」の枚数です。
- 動画枚数
- 動画さんが描いた原画のトレス、およびその間の動きを補間して(「中割り」といいます)描いた「動画」の枚数です。一般に「作画枚数」といえば、この枚数を指します。
- 仕上枚数
- 仕上さんが完成させた「セル」の枚数です。透過光など特殊な素材を必要とする撮影処理が積み重なる場合、その枚数は動画枚数を大きく上回る数になります。
ここで「伝説」を再度確認すると、「仕上枚数5000枚」と「1話あたりの動画枚数3000枚」という異なる工程での枚数を比較対象としてしまっていることがわかります。
サンシャイン変身の場合、正しい尺度で比較をすると
「1話あたり本篇尺20分で動画枚数3000枚のところ、70秒のBANKだけで動画1000枚を使用した。」
という表現になります。この場合でもBANKが平常時の6倍動いていることになり、凄いことに変わりはありません。
なお「動画枚数1話3000枚」というのはかなり優等生的な回を基準にしています。東映アニメーションでは1980年代半ばに30分TVアニメに対して「3500枚」という動画枚数の制限を決めていますが、歴代『プリキュア』シリーズではこれを2倍ほどにまで超過した回もあるそうです。
なぜ8年経ってもこの「伝説」だけが語られるのか
『ハートキャッチプリキュア!』の放送から8年が経過し、その後のシリーズではさらに多くの動画枚数を費やした見応えのあるBANKが数多く登場してきました。
サンシャイン変身BANKを担当した志田さんも、次のようなツイートをされています。
正確な枚数は分かりません。
サンシャインよりスマイルプリキュアの必殺技(名前忘れちゃった)の方が倍以上かかってると思います? #peing #質問箱 https://t.co/uZlf2jEpHE pic.twitter.com/AX34ckXN7t— 志田直俊 (@naoV47) January 15, 2018
確かに『スマイルプリキュア!』レインボーバーストBANKは画面からの推定では動画枚数2000~3000枚クラスとみられ、サンシャイン変身の1000枚を大きく上回るものと思われます。
にもかかわらず、どうして放送から8年が経過した今もこの「サンシャイン5000枚伝説」だけが独り歩きして殊更に語られているのでしょうか。
その答は実にシンプルで、「具体的な枚数が大っぴらに明かされ私達が知っているのが、サンシャイン変身だけだから」です。凄い映像は他にもたくさん見てきましたが、具体的な値としては私達はほとんどこれしか知らないので他と定量的な比較のしようがないのです。
動画枚数や仕上枚数といった情報が製作上の高度にセンシティブな情報であることは重々承知していますが、やはりファンとしては本当の「答」を知りたいと考えてしまうものです。