わたしは過去を忘れていない……
確かに、ここに抱いている。
これも、わたし!
第40話「るるかの答え」で、森亜るるかは、仲間になってからは『映画 名探偵プリキュア! 不思議な庭と2人の秘密』で一度見せただけだった姿――キュアアルカナ・シャドウに、自ら姿を変えました。怪盗団ファントムの一員として、くれあを、そして多くの人を傷つけた頃の姿です。それを「これも、わたし」と言い切ったことが、サブタイトルに謳われた「るるかの答え」でした。
思い返せば、仲間になってからのるるかの毎日は、過去の過ちを贖う日々でもありました。ファントム時代に多大な迷惑をかけた相手に謝罪し、高校でたくさん友達をつくり、名探偵として仲間とともに人々を助ける。誰が見ても、るるかは変わりました。では、変わった自分というのは、昔の自分を消し去ったものなのでしょうか? 今回はこの問いを、るるかが受け取った「忘れ物」を手がかりに考えてみます。
今週の放送
『名探偵プリキュア!』第40話「るるかの答え」
2026年11月8日放送。あらすじは東映アニメーション公式サイトに載っています。データは precure.tv の第40話のページにまとめています。
ゴウエモンからの果たし状
今回の事件は、依頼ではなく「果たし状」から始まりました。差出人は、ファントムの一員のゴウエモン。その理由がとても彼らしいものでした。怪盗時代のるるかが予告状を送ったうえで探偵と真っ向から勝負していたのにならって、ゴウエモンも狙うターゲットを先に明かし、正々堂々と勝負を挑んできたのです。ゴウエモンにとって、怪盗時代のるるかは「弟子」として一目置く存在だったことが窺えます。
鏡に映る「新しい自分」
今回マコトジュエルが宿っていたのは、るるかとくれあのクラスメイト、美緒のコンパクトミラーでした。美緒は、第35話でるるかがラブレターの送り主と引き合わせ、告白を実らせた子です。この一件から、るるかは学園で「恋の名探偵」と呼ばれるようになったのでした。マコトジュエルは「彼氏からもらった贈り物」に宿ると予言に出たのに、美緒は彼氏の隆史くんから何ももらっていないと言います。誕生日のプレゼントではないかと当たりをつけたあんなたちの読みも外れ、美緒のほうから、贈り物は要らないと隆史くんに断っていたのです。美緒は、隆史くんがそばにいてくれるだけで嬉しく、もう十分にもらっているのだと話し、言ってしまってから恥ずかしそうにしていました。
この言葉で、るるかはジュエルの在りかを見抜きます。ところが、その一瞬の反応をゴウエモンは見逃さず、美緒のコンパクトミラーを持ち去ってしまいました。戦いの最中、るるかに名推理だと言われたゴウエモンは、推理は怪盗の柄ではなく、るるかの顔を見れば分かったのだと明かしています。推理するまでもなく顔色ひとつで分かってしまうほど、ゴウエモンは長く、近くで、弟子のるるかを見てきたのだと私は読んでいます。
なぜ鏡だったのか、その謎を解いたのもるるかでした。彼とつきあうようになってから、美緒には鏡に映る自分が輝いて見えていて、その「新しい自分」が彼からの「贈り物」だった、という推理です。
るるかは、自分も同じだとも呟きます。キュアット探偵事務所の仲間たちと出会ってから、るるかもまた、鏡の中に新しい自分を見つけていたのでしょう。
鏡に映らないもの
今回は自分に任せてほしいと仲間に告げ、一人でゴウエモンに挑んだキュアアルカナでしたが、アルカナスターシャインも押し返されてしまいます。するとゴウエモンは、怪物ハンニンダーの鏡にアルカナの姿を映して見せ、るるかが変わったことは認めつつも、そこに映っているのは「うわべの姿」にすぎず、過去のるるかは映っていないと突きつけました。
美緒の鏡のエピソードを、ゴウエモンはここで裏返しにしてみせました。鏡に映るのは今の自分だけで、それだけを自分だと思うなら、自分の半分しか見ていない、という理屈です。
これに対してるるかは、それはもう分かっていると言い返し、ゴウエモンが“これ”を返してくれた意味も分かっていると続けます。
「これ」とは、第33話でゴウエモンが返したティアアルカナロッドのペンダントです。ファントムを抜けたるるかに「卒業試験」を課したゴウエモンは、卒業証書と一緒に、アルカナ・シャドウのロッドを「忘れもんだ」と手渡し、過去はなかったことにはできないのだから、アルカナ・シャドウとして歩んできた道を忘れず、過去を背負って新たな道を進むよう説いて送り出していたのでした。
このときのるるかの返事は「余計なお世話」でした。しかも同じ回の戦いの中で、自分はもうアルカナ・シャドウではなくキュアアルカナだと、自らに言い聞かせるように宣言していました。ロッドを手元に置くことは受け入れましたが、自らアルカナ・シャドウに変身することはありませんでした。
それから第39話まで、アルカナ・シャドウの名前は、作中で一度も口にされていません。今回、るるかはそのロッドを手に、久しぶりにアルカナ・シャドウの姿をまといました。ここで、冒頭で引用した台詞です。第33話で「アルカナ・シャドウじゃない」と言ったるるかが、その7話後には「これも、わたし」と認めています。この回で私が一番ジーンと来たのは、この変化の対比でした。ゴウエモンの「余計なお世話」は、約2か月かけて、ちゃんと届いていたのです。
闇の姿でパワーアップ?
ただ、この展開に、少し戸惑った方もいるかもしれません。なにしろアルカナ・シャドウは、るるかがかつて過ちを犯した頃の姿です。第31話で、怪盗デッチ・アゲインに与えられた力でエクリプス・シャドウとなっていたるるかは、くれあと向き合ってシャドウの力を振り払い、キュアアルカナになりました。そのるるかがアルカナ・シャドウの姿にまた戻って強くなるのは、振り切ったはずの過去を肯定することに繋がらないか、という懸念。
これには、ちゃんと作中でるるか自身が答を見つけています。ゴウエモンが「忘れられた種族」である自分を人間のるるかが認めてくれて嬉しかったと打ち明けたとき、るるかは、存在を認識されない辛さは自分にも分かると寄り添いながらも、どんなことがあっても誰かを傷つけていい理由にはならないと言い切りました。
存在が認識されない、その辛さは分かる。
わたしも、そうだった……
でも、どんなことがあっても、
誰かを傷つけていい理由にはならない。
わたしは変わった!
新しい一歩を踏み出せた!
アルカナ・シャドウの姿になってからも、この姿でたくさんの過ちを犯し、くれあを、色んな人たちを傷つけたと口にしています。るるかは、決して過ちを犯した過去を美化も正当化もしてなどいません。アルカナ・シャドウの道を選んだことを間違いだったと言うのか、とゴウエモンに迫られ、るるかが「違う」と返したのも、過ちがなかったという意味ではないと私は受け止めています。それは、るるか自身の言葉ではっきりと次のように語られました。
過去があったから、今がある!
だから、わたしは受け入れる。
過去の過ちも、後悔も……アルカナ・シャドウの力も!
るるかは、過ちを過ちとして認めたうえで、その過去ごと自分だと受け入れています。第34話で、怪盗だった頃にイヤリングを狙った相手のしるくさんと、首飾りを盗んだ美術館のオーナーの宝生さんに、るるかが自分からきちんと謝罪をしていたのも、過去から目を背けずに自分の過去に向き合う姿勢からでした。謝罪することが過去を「誰かとの関係」の中で受け止めることだとするなら、今回は、それを自分の心の内面で受け止めた回であったと言えるかも知れません。
るるかのように、敵の側からプリキュアになった先輩は、これまでにもたくさんいます。過去があったから今がある、というるるかの答えは、その先輩たちが苦しみながら歩いてきた道の先にあります。
『フレッシュプリキュア!』(2009) の東せつな(キュアパッション)は、敵の組織ラビリンスの幹部イースとして、プリキュアと戦っていました。ラビリンスに定められたイースの寿命が尽きたとき、4人目のプリキュアとして目覚めたのが、キュアパッションです(第23話)。それでもせつなは、イースとして重ねてきた悪事を自分で許せず、仲間には加われないと、主人公の桃園ラブたちの前から去ってしまいます。ラビリンスにはもう戻れず、かといってプリキュアとして仲間に加わることもできずに、行き場をなくしたせつなを、ラブの母・桃園あゆみは、少しずつやり直せばいいと励まして迎え入れ、せつなは桃園家で暮らし始めました(第24話)。
続く第25話で、せつなは、イースだった頃に不幸にしてしまった少年タケシと犬のラッキーに、もう一度出会います。気に病むせつなの前に、ラビリンスのサウラーが現れ、せつなの影から、イースに瓜二つの怪物を生み出して襲わせました。うろたえたせつなでしたが、ラブたちに励まされて立ち直り、キュアパッションに変身してその怪物を倒しています。
『スイートプリキュア♪』(2011) の黒川エレン(キュアビート、セイレーン)は、敵組織マイナーランドの歌姫として、人々を不幸にする歌「不幸のメロディ」を歌おうとしていました。かつての親友で、メイジャーランドで幸福のメロディを歌う妖精ハミィの必死の歌声に心を揺さぶられ、これ以上ハミィを悲しませたくないと願ったとき、セイレーンはプリキュア・キュアビートに変身します(第21話)。それでもエレンは、音楽を使って人々を傷つけてきた自分には、美しい音楽を楽しむことさえ許されないし、プリキュアになる資格もないと言い張ります。もう誰も不幸にしたくないと願い、再びキュアビートとして戦いますが、木が傷ついたのは自分のせいだと責めて、仲間のもとから逃げ出してしまいました(第22話)。マイナーランドにもメイジャーランドにも戻れず、この世界のどこにも自分の居場所はないと感じていたエレンが、キュアビートとして戦う道を選んだのは、自分がこれまで壊してきた友情や愛情、人を信じる心を、もう二度と壊したくないと願ったときでした。その回の終わりには、これまでの過ちを、海に向かって大声で謝っています(第23話)。
『Go!プリンセスプリキュア』(2015) の紅城トワ(キュアスカーレット)は、幼い頃、夢に苦しむ心の隙を敵の首領ディスピアにつかれ、記憶も夢も消されて、トワイライトとして育てられていました(第21話)。元の姿に戻り、もうトワイライトではないと言い切ったあとも、トワは自分の犯した罪に苦しみます。それでも、どんなに失敗しても一歩ずつ取り返していけばいいというキュアフローラの言葉を受けて、一度犯した罪は消えなくても、その罪を胸に「抱いた」まま、もう一度夢を目指すと決め、キュアスカーレットに変身しました(第22話)。さらに第23話では、仲間たちに今までのことを謝り、謝っても罪は消えないと知りながら、トワイライトだった頃に傷つけた学園長の望月ゆめを守るために戦っています。
3人とも、プリキュアになったあとで、敵だった頃の自分を責め、仲間の輪に入るのをためらっています。そして3人とも、自分のしてきたことから目をそらしませんでした。せつなとトワは、かつて傷つけた相手と、もう一度向き合いました。エレンは、これまで数々の過ちを重ね、たくさんの心の絆を壊してきたことを、海に向かって、心の底から大声で謝っています。迷惑をかけた相手に自分から謝って回り、今回、過去ごと自分を受け入れたるるかは、この先輩たちと同じ道を歩いてきたことになります。
その中で、今回と比べてみるのが、せつなの第25話と、トワの第22話です。せつなの影から生まれたイースそっくりの怪物を、キュアパッションは「克服して乗り越える相手」として倒しました。トワは、もうトワイライトではないと断言し、犯した罪は胸に「抱いた」まま進むと決めました。そして今回のるるかは、同じ「抱く」という言葉で過去の過ちを受け止め、そして過去の自分の姿と力そのものを捨てないことを決意しました。プリキュアの長い歴史の中で、敵方から改心したプリキュアによる過去との向き合い方に、一つの新しい答が加わったと思います。
光と陰、その2つが自分を迷宮から真実へと誘うと言い、るるかは再びキュアアルカナの姿に戻り、アルカナとアルカナ・シャドウ、二つのロッドを両手に携えます。まさにその瞬間、スターキラリングブローチの2つ目の宝石が光ったのでした。「光」が鏡に映る今の自分なら、「陰」は今は鏡に映らない過去です。その両方を手にしたときに宝石が光るという描写こそが、「るるかの答え」そのものだったと私は解釈しています。
出会う順番
潔く負けを認めたゴウエモンが去り際に口にした言葉も、印象に残りました。ゴウエモンは、先に出会ったのがウソノワールで、その恩は返しきれないほど大きいと言い、出会う順番が悪かったのかも知れないとまで言ってみせたのです。
第37話では、怪盗団ファントムの首領・ウソノワールが、人からも妖精からも忘れ去られた自分には、居場所も、立つ舞台もないと語っていました。ゴウエモンにとっての居場所をくれたのは、先に出会ったウソノワールだったのでしょう。もしゴウエモンが、先にるるかや事務所のみんなと出会っていたら――そう考えずにいられない、切ない一言です。るるかは過去を引き受けて新しい道を選びましたが、ゴウエモンは恩義という過去に縛られて、いまだ同じ道に留まっています。ただ、るるかに、過去を背負って新たな道を進むよう説いたのも、ほかならぬゴウエモンです。この言葉がいつか本人に返っていく日が来ることを、願ってやみません。
秘密がある女の子
事件解決のあと、事務所のガーデンで一人考え込んでいたるるかのもとに、みくるがやってきます。みくるは事務所を訪ねてきたきっかけを、プリキュアがいると聞き、先輩プリキュアと探偵をすることに憧れたことだったと打ち明け、るるかが先輩として事務所にいてくれることが、とても嬉しいと伝えました。
さて、これは第2話の答え合わせでもあります。あんなを事務所に連れてきたみくるは、プリキュアがいることは秘密だと話しながら、なぜそれを知っているのかをあんなに尋ねられると、話をはぐらかしていました。事務所の主のジェット先輩から、先輩のプリキュアは数か月前に姿を消したと聞かされると、この事務所でプリキュアの先輩と調査するのが夢だったと肩を落としています。かつてこの事務所にいたその先輩プリキュアの一人が、るるかです。みくるの夢は、いつの間にか叶っていたのです。
11月2日の記事では、第1話と第2話のみくるについて、こう書きました。
知っている理由を聞かれると、みくるは話を変えます。
今回のみくるは、聞かれる前に自分から話し始めました。事務所に来た理由は告白しましたが、プリキュアがいることを誰から聞いたのかについては、依然として明かされない謎として残っています。
どうして黙っていたのかと、るるかの相棒の妖精マシュタンに聞かれて、みくるは言葉に詰まります。世間には伏せられているプリキュアのことを、どうして知っていたのか。そこを掘り下げられたくなかったのだろうと、るるかはみくるの気持ちを汲み取り、問い詰めずにこう言いました。
誰だって、言えないことの1つや2つくらいある。
それに……秘密がある女の子って、素敵じゃない?
この言葉は、るるかに語らせたからこそ、重みがあると言えるでしょう。アルカナ・シャドウの名乗りは「神秘と秘密で包み込む」でしたし、サブタイトルにも「キュアアルカナ・シャドウの秘密」(第12話)、「森亜るるかの秘密」(第15話)と、るるかは常に秘密とともに描かれてきました。第35話では、言いたくても言えない手紙の送り主に、自分もそうだと重ねてもいます。言えないことを抱えてきたるるかは、相手の言えないことを無理にこじ開けようとは決してしません。
最後に、るるかは、自分も可愛い後輩ができて嬉しいと続けます。第15話、まだ敵だったアルカナ・シャドウは、元名探偵からのアドバイスと称して、あんなたちを「可愛い後輩たち」と呼んでいました。あのときの「可愛い後輩」は皮肉交じりでしたが、今回は本心からの言葉です。ゴウエモンがるるかに道を示したように、今度はるるかが、みくるの秘密ごと、先輩として隣から優しく支えます。「先輩、先輩」とくっついてくるみくるをるるかが鬱陶しそうにあしらう場面も微笑ましく、とても愛おしい時間でした。
今回の作画監督は青山充さん。プリキュアのTVシリーズでは3か月ぶり、109回目の作画監督で、今回も原画をお一人で手がけた一人原画の回でした。シリーズ第1作『ふたりはプリキュア』(2004) の第1話から歴代プリキュアのみならず、日曜朝8:30のアニメ枠が始まってから42年間にもわたって原画および作画監督を務めてきた、第40話放送時点で72歳8か月の大ベテランです。キュアット探偵事務所の面々の中でも、みくるはとりわけコロコロといろいろな表情を見せる子なので、青山さんの絵がとても映えます。
過去も、わたし
今の自分は、昔の自分を消して塗り替えたものではない、というのが、るるかの答えだと私は考えます。仲間と出会って輝きはじめた今の自分は鏡に映りますが、そこまで歩いてきた道のりは映っていません。その映らない道のりを「これも、わたし」と受け止めているからこそ、るるかはみくるが黙して語らない秘密をも、そのまま一緒に受け止められたのでしょう。
次回は第41話「みくるの答え」です。予告ではロンドン事務所の“暁の証明”こと花崎まふる所長が姿を見せる一方、隠し事はしないでほしいと言うあんなに、どこか様子のおかしいみくるが、自分の何を知っているのかと反駁しています。今回るるかが受け止めたみくるの秘密に、いよいよ光が当てられる時が来たようです。11月2日の記事で第4クールに残ったと書いた「みくるの心のまこと」に「みくるの答え」がどう応えるのか、ブローチの残る2つの宝石とあわせて楽しみに待ちます。これからもキュアット解決!
スタッフ
| 役職 | 担当 |
|---|---|
| 脚本 | 佐多賢人さん |
| 演出 | ひろしまひできさん |
| 作画監督 | 青山充さん |
| 美術 | 福田李音さん |
| 絵コンテ | 村上貴之さん |
これからの予定
- 11/15(日) 『名探偵プリキュア!』第41話「みくるの答え」放送