今回はハロウィン回で、『おジャ魔女どれみ』とのコラボ回でもありました。たんプリの舞台である1999年のまことみらい市では、我々の世界の1999年の頃と同じく、『どれみ』が本当に日曜の朝に放送されているようです。『どれみ』、懐かしいですね。いまプリキュアを見ている子どもたちの親世代には、当時ちょうど我が子と同じくらいの年だった方も多いのではないでしょうか。どれみちゃんの仮装で現れた迷子のひなのちゃんは、当時の皆さんと同じくらいの年ごろでしょう。一方であんなにとっては、自分が生まれる遥か前に放送されたアニメ。昔のアニメを知らない今の子どもたちと、同じ立場ですね(単に対象年齢を過ぎているみくるも知らないのはさておき)。つまりこの回では、作中でいちばん幼いひなのちゃんが親世代の視聴者にいちばん近く、あんなのほうが今の子どもたちに近い。面白い、年齢の逆転です。私にはまだ子どもはいませんが、保護者の方々の中には、幼い頃の自分と、自分の子どもとが時を越えて出会っているようで、温かくて不思議な気持ちになった方もいらっしゃったのではないでしょうか。
おジャ魔女に変装した4人の姿や、彼女らが使う魔法は、言ってしまえば精巧な作り物です。それでも、この回で4人が守った物はまぎれもなく本物でした。嘘とまことを追い続けてきた本作が、第39話では何を語ったのか――今回はそれを読み解いていきます。
今週の放送
『名探偵プリキュア!』第39話「おジャ魔女なハロウィン♪」
2026年10月25日放送。あらすじは東映アニメーション公式サイトへ。データは precure.tv の第39話のページにまとめています。
過日のコナンコラボと違い、今回のどれみコラボではどれみたち本人の登場はありませんでした。作中でも、『おジャ魔女どれみ』はあくまでテレビの中の創作物にすぎません。そんな中で展開されるこのお話――私が思うに、そのテーマはズバリ、「本物とは何か?」です。人々がありのままの自分を覆い隠し、別の何かになり切る日、ハロウィン。まさにこのテーマを扱うにはうってつけの舞台です。プリキットグロスを用いて姿を変え、魔女見習いの仮装をしたあんなたちは、ただの偽物なのか? 真っ赤な嘘の存在なのか? ――確かに明智あんなは春風どれみではありません。まったく別個の存在です。でも私には、あの魔女見習いの姿がまるっきりの偽物だとは思えないのです。
名探偵と魔女見習い
まず、魔女見習い――本物のどれみたちとは、何者なのか。その答えは、作中でひなのちゃん自身が語っています。「魔女になるために、こまってる人を助けたり、魔女見習い試験を受けたり、がんばってるんだよ!」。さて、これはどこかで聞いた話ではないでしょうか。立派な名探偵になるために、困っている人を助け、人によっては探偵試験を受け、試練に直面する――たんプリのみんなが毎週やっていることと、寸分違いません。つまりあんなたちは、姿を借りる前から既に、中身のほうは魔女見習いとよく似ています。仮装の衣装は、その一致を目に見える形にしただけだと私は考えています。
その「中身」を、この回はふんだんに見せてくれます。4人はこの日、誰にも頼まれていないことばかりしているのです。泣いている迷子に声をかけたのはあんな。寄り添い、一緒に行動しようと誘ったのはみくるとくれあ。お母さんを見つけたうえで「あとでわたしたちが家まで送っていく」と言ったのは、るるかでした。そうそう、るるかといえば……かつて第15話で、「力になりたい、それが探偵でしょ?」と言うアンサーに「探偵は依頼があって動くもの。わたし、依頼してないけど」と突き放した、アルカナ・シャドウ(るるか)。それを思えば、あれから彼女もすっかり変わりましたね。依頼があるから探偵の仕事をするのではなく、困っている人がいるから助けに行く。あんなたちの信条であり、るるかが敵だった頃に二人が問答した論点が、今回の第39話でも形を変えて提示されています。
自分の手で頑張るからこそ
それからもう一つ、この回でずっと大事にされていたのが「自分の手で作る」ことです。「プリキットグロスを使えば簡単に仮装できるのに」と言うジェット先輩に、あんなは「自分で作ることもハロウィンの楽しみだからね」と返しています。4人の衣装は手作りで、くれあは本や映画でキョンシーを調べてきたそうですし、お化けが苦手なはずのみくるまで「準備のほうが楽しくて」と積極的な姿勢でした。商店街のお祭りだって、あんなが会長さんに直談判して実現させたものです。一方で、「今すぐ仮装できるグッズ」を取り扱うお店(カメリア)でりえとゆみが楽しんでいる姿も、ちゃんと描かれています。自分の力で頑張ることを重んじつつも、お手軽に楽しむことも否定していません。
姿を変えることはウソなのか
では、たんプリにおいて、主人公たちが否定するもの――「嘘」とは何でしょうか。思い返せば本作では、かなり早い段階からこれを定義していました。第2話の「人を悲しませるウソ」、第11話の「ウソをついて人のものをとる」。要するに、本物を覆い隠して人から奪う行いです。今回のアゲセーヌの「交換しただけだし」という屁理屈は、まさにこれです。ここで大事なのは、咎められているのは魔女の仮装でもなく、アゲセーヌ本来の格好でもなく、人を悲しませるその言葉と行いのほうだということ。考えてみれば、あんなたちだって、手作りの仮装、『どれみ』の「お着がえ」、プリキュアへの変身と、この回だけで三度も姿を変えています。それで誰かを騙し、悲しませたでしょうか? そんなことはありません。魔女見習いの「お着がえ」も、プリキュアの「変身」も、やっていることは同じです。姿を変えることと、人を欺くこと。たんプリの世界では、この二つは最初から別物なのです。
奇跡の条件
そして、この回の脚本で私が一番唸ったのが、魔法の扱いです。おジャ魔女の姿になったあんなが最初に呪文を唱えたとき、魔法は不発に終わりました。魔法玉がないからです(『どれみ』作中に即しています)。ギャグっぽく描かれているこのシーンですが、実はとても大きな意味を持っています。もし追っている相手を魔法で止められていたら、4人は楽をして目的を果たせてしまったはず。自分の目的のために楽をする魔法を、脚本はあえて不発にしたのだと私は読んでいます。楽をするために何かに頼ること自体は、悪いことではありません。ただ、この回の脚本が描きたかったのは、そこではなかったのでしょう。おかげで4人は、自力で空を飛んで追いつき、そしてプリキュアとしての自分たちの力でほうきを取り返すしかなくなりました。
この回では、誰もが自分の手で何かを用意していました。ジェット先輩は気合いを入れてパワーアップ版のグロスを作り、あんなたちはお祭りを提案して衣装を手作りし、事件のときにはほうきに乗って怪盗を追いました。そしてひなのちゃんも、どれみちゃんのように飛びたいと願いながら、お母さんと一緒に、自分のほうきを手作りしています。立場も年齢も違う全員が、この日は、助けるべき相手――ひなのちゃんのために、力と努力と思いを注いでいました。そうして全員がそれぞれ己のすべきことをやり遂げたとき、プリキュアのもとに魔法玉が1つずつ現れます。この魔法玉は、ひなのちゃんのために思いを重ねて力を尽くした証。だからこそ4人は、迷うことなく、その一回きりの魔法を「ひなのちゃんの夢をかなえ」ることに使ったのです。わざわざ相談する必要もありませんでした。困っている人を助けて笑顔にする、という信条から自然に導き出された、心のまことです。ちなみにこの展開、見ている側からすれば「あんなはその魔法で未来に帰れたのでは?」と思わなくもありません。実際、『どれみ』作中でも時間移動は可能みたいですからね。でも、あんなはそんなこと、考えもしないのです。思いや願いを踏みにじる理不尽に対抗するのが魔女見習いや名探偵の力であり、その心意気があってはじめて、奇跡は応えてくれる。前半で一度、楽をするための魔法を不発にしてあるからこそ、後半のこの魔法が都合のいい奇跡に見えないわけです。
こうして願いは叶い、感動したひなのちゃんは、「お姉さんたち、本物のおジャ魔女なの?」と聞きます。その問いに、本物だよと言えば嘘になる。偽物だよと言えば、ひなのちゃんが今日見たものを否定して、夢を壊してしまう。嘘をつかないあんなが選んだのは、「ナ・イ・ショ」でした。姿と魔法は借り物――けれど、その心意気と努力は正真正銘の本物の思いです。この返答こそ、まさしくベストアンサーだったのでしょう。『おジャ魔女どれみ ナ・イ・ショ』の題名を借りているのもニクいですね。
まことと心を守るために
ところでマコトジュエルは、ひなのちゃんがお母さんと作ったほうきに宿っていました。これは有り体に言えば、仮装のためのアイテムに過ぎない、偽物の「魔法のほうき」です。そういえば第11話でも、偽物の首飾りにマコトジュエルが宿っていましたね。まことが宿るかどうかを決めるのは、それが本物か偽物かではなく、そこに人の思いが寄り添っているかどうか、なのでしょう。確かにたんプリの世界において『どれみ』は日曜朝のアニメ――創作物に過ぎず、ひなのちゃんの生きる世界に本物のどれみちゃんはいません。だけど、その作り物に寄り添ったひなのちゃんのまことは、しっかりと守られました。ここで私が思い出したのは、『おジャ魔女どれみ ナ・イ・ショ』の第12話です。魔女に憧れる入院中の女の子に、どれみたちが夜の病室で魔法を見せてあげる回。その女の子が願ったことの1つも、ほうきで飛ぶことでした。病魔との闘いに疲弊し、心が折れかける彼女に、どれみたちは「魔法は本当にあるのだ」と示し、その子の願いと信条を守ったのでした。
テレビの前の子どもたちにとっては、『名探偵プリキュア!』もまた作り物です。それでも、その中にまことはある。作り物の世界に本物のどれみちゃんがいなくても、子どものまことは守れる。この回はそのことを、コラボという形で実際にやってみせてくれたのだと、私は受け取りました。これを機に、今の子どもたちにも『どれみ』を見てもらえたら嬉しいですね。
ありがとう、どれみコラボ!
作り手の方々も、作中の4人に負けないくらい手間をかけてくださっています。脚本の成田良美さんは『どれみ』シリーズの脚本にも参加されていた方で、『どれみ』のプロデューサーの関弘美さんによれば、20年以上前の記憶をたどって書かれたそうです1。絵コンテの重矢葉月さんと篠原花奈さんは『どれみ』世代で1、お名前もはづきとハナ2。魔法に関する効果音が『どれみ』のままだったのは、音響効果を『どれみ』と同じ石野貴久さんが担当されているからでした。杖が第1作後半に登場したクルールポロンだったことも、呪文とマジカルステージが第1作の形だったことも、作り物を本物に近づけるための工夫です。そしてこれはなんとも不思議な巡り合わせですが、1999年10月31日の朝には、『どれみ』のほうも第39話を放送していたのですよ。
次回は第40話「るるかの答え」です。この第39話で困っている子をあんなたちと共に進んで助け、敵時代からの成長を見せてくれたるるか。そんな彼女が、どんな心の答えを聞かせてくれるのか期待が膨らみます。放送は少し間が空いて11月8日。楽しみに待ちましょう。これからもキュアット解決!
スタッフ
| 役職 | 担当 |
|---|---|
| 脚本 | 成田良美さん |
| 演出 | 篠原花奈さん |
| 作画監督 | 松浦仁美さん |
| 美術 | 徐柱星さん |
| 絵コンテ | 篠原花奈さん、重矢葉月さん |
これからの予定
- 11/8(日) 『名探偵プリキュア!』第40話「るるかの答え」放送
「名探偵プリキュア!×おジャ魔女どれみ:愛とリスペクトにあふれた初コラボ 演出に込められた“どれみ愛” 荒牧壮也、関弘美プロデューサーに聞く」MANTANWEB(2026年10月25日) ↩︎ ↩︎
「「名探偵プリキュア!」×「おジャ魔女どれみ」 コラボ決定!!」『名探偵プリキュア!』公式サイト(2026年10月16日)の関弘美さんのコメント ↩︎